Date: Fri, 15 Nov 2002 21:07:34 +0900
To: debito@debito.org
From: Arudou Debito <debito@debito.org>
Subject: 小樽温泉訴訟判決について、感想文

 皆様、こんばんは。有道 出人です。いつもお世話になっております。色々なサポートメールをいただきまして、誠にありがとうございました。後程皆様個々に返答しますが、もう少しお待ち下さい。

 さて、皆様はニュースで既に御存知のことかもしれませんが、11月11日に、札幌地裁は外見で外国人みたいな客を一律入浴拒否した温泉と、管内における差別問題に対し数年間にわたって効果的な措置を採らなかった小樽市を相手取る民事訴訟の判決を下した。

 結果は、被告温泉「湯の花」には賠償金300万円(各原告3人に100万円)慰謝料を求めたものの、被告小樽市の場合に原告からのクレーム(国連の人種差別撤廃条約違反など)は全て棄却となりました。

 このメールでは、判決を分析し私(個人)の感想を述べさせていただきたいと思います。

(判決全文は http://www.debito.org/otarulawsuithanketsu.html)

 法廷の係争では頻繁に起きることですが、判決には「勝つ・負け」つまり「グッドニュース」と「バッドニュース」があります。それぞれの面から分析いたします。

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 被告 温泉「湯の花」の場合:

 「グッドニュース」は外国人または外見が外国人みたいなことを理由にし、人々を門前払いするのは「人種差別」あり(「国籍差別」ではなく、私も日本人であると認められて)のため不法行為である、と認めました。これで「JAPANESE ONLY」のポリシーを実施してはいけないと司法的に声明されたのです。

 「バッドニュース」は「不法行為」は人種差別ではなく、「差別のやりすぎ」に留まりました。判決文の23ページの下では(http://www.debito.org/otarulawsuithanketsu.html#23) こう書いてあります:

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 「したがって、外国人一律入浴拒否の方法によってなされた本件入浴拒否は、不合理な差別であって、社会的に許容しうる限度を超えているものといえるから、違法であって不法行為にあたる。」
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 この文章により色々な問題が発生すると思います。違法性は「不合理な差別」であり(人種差別ではない)、まるで「合理的な差別なら社会で許容できる」とのニュアンスです。いわゆる「合理的な差別」の提議は判決には出ず、「何が社会的に許容ができるかできないか?」、「その限度はどこにある?」、そして「どうやって線引きして『これが差別のやりすぎ』を裁くのか」、この大事な質問と論点は裁判官が論じるお仕事があるものの曖昧にされました。しかも、判決は一切人種差別撤廃条約を適用しようとしなかった(民法709条国内法の違反だと主張)ので、まだ条約が国内で法的該当性がそのまま不明であります。

 要は、「合理的差別とは?」をこれから取り組んで提議しないといけないです。例えば、「目の見えない人は飛行機のパイロットに成れないことは合理的差別である」にしてもかかわらず、皮膚の色・外見だけで何かが合理的差別に当たれるのでしょうか。皮膚が黒いからパイロットに成れませんか?即ち、私の(緑色の)目から見れば、外見・人種による差別は「合理的差別」に該当しうりません。

 なのに、これから差別に当たる行為が起きれば、その被害者はケースバイケースで法廷に持ち込み、大金額と数年間かけて「不法行為に当たるか」を各裁判官の判断に任せなければならないのです。よって、この判決は判例としてインパクトがぼやけてしまったと思います。

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  被告 小樽市の場合:

 「グッドニュース」は小樽市は締約した「国」と同様に、人種差別撤廃条約を守らなければならないと認められました。私たちが心配したのは、「国が締約したので、市まで及ぼさない」ようになる判決でした(撤廃条約では地方自治体までも効くことは明白に書いてある)。(http://www.debito.org/jinshusabetsuteppaijouyaku.html
)

  「バッドニュース」は「市は人種差別撤廃を法制化する責務はない」と認められました。判決文の25ページの中部では(http://www.debito.org/otarulawsuithanketsu.html#25) こう書いてあります:

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 「地方公共団体である被告小樽市が、公権力の一翼を担う機関として、国と同様に、人種差別を撤廃し終了させる義務を負うとしても、それは政治的責務にとどまり、個々の市民との間で、条例を制定することによって具体的な人種差別を禁止し終了させることが一義的に明確に義務づけられるものではないと解される。」

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 つまり、市は人種差別を撤廃する義務があるが、法制化する義務がありません。これは矛盾だと感じざるを得ません。この判決の骨子は「この差別は違法ではあるかないか」なのに、「人種差別の撤廃法がないので、やむを得なく不法行為であるかないかは裁判官が裁かなければならない」。けれども、この判例は「行政官は立法を作る義務がない」との悪循環を制定しています。

 皆様に注意していただきたいことは、法廷から下りた判決は法律ではありません。立法府(国会、県議会と市議会など)と行政官(公務員が果たす仕事)には強制力・執行力がありません。ただ、もし法廷まで持ち込んだら、どんなような判決が出るのかだけの標であります。

 (ちなみに、きょうは偶然、青森地方法務局から手紙が届きました。前春の私が挙げた件(三沢市で私は日本人のパスポートも提示しても「JAPANESE ONLY」のバー7店は私の入店を拒否しました。(http://www.debito.org/misawahaiseki.html)。人権擁護部は「3店舗は看板を撤去したが、残るの4店舗は円滑な営業の観点から看板の撤去は困難であるとしながらも、啓発の結果人権尊重の趣旨については十分な理解を示しているので、念のため、通知します。」(http://www.debito.org/mojaomori111302.html) つまり、一律外国人かつ私日本人のお断りは違法行為ではないので、行政官は差別撤廃する強制力はありません。)

 よって、この判決は大変悪い前例になる可能性がありますので、原告3人はこれからどうすればいいのをゆっくり考えております。

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 最後に、これからどうなりますか。
 
 1)この判決の曖昧な書き方になった原因について:

 筋によりますと、地裁の裁判官は控訴で判決が覆すことが怖がる(出世に悪影響があるようだ)ためなるべく断言的な判例を作らないようであります。控訴し高裁が明確な判例を出すことが常識のようです。

 2)被告の反応:(朝日新聞11月12日(朝)ページワン より)

 小樽市長山田勝麿氏:「市ができることが限られており、その点を明確にした判決は極めて妥当だ。しかし、法的な義務とは別に、市としてできることは努力し、市民に対する意識啓発などの取り組みを引き続き進めていく。」

 温泉「湯の花」の支配人小林氏:「判決には納得していない。今後については、判決内容をもう一度確認してから考えたい。」(これからも日本語ができない外国人客の入場は一切お断りするようです)

 (また筋によりますが、「湯の花」は控訴をする可能性が高いですが。)

 3)そして、慰謝料はどうなりますか。カンパしていただいたサポーターズ(後程ご連絡します)に返金してから、残高は:

 カートハウス氏は「フィリピン、カンボジアと印度の孤児院などに全額寄付します。」
 サザランド氏は「妻に上げます」
 有道 出人は賠償金を人権擁護の活動に捧げます。一切個人的に使用しません。

 ということで、宜しくお願い致します!

 有道 出人
 
 (小樽温泉問題の経緯は http://www.debito.org/nihongotimeline.html)
 ENDS

判決について日本と外国の新聞の報道はここです