訴 状
平成13年2月1日
札幌地方裁判所 御 中
原 告 別紙当事者目録記載のとおり
被 告 }
〒060−0003
札幌市中央区北3条西7丁目 緑苑ビル809号
伊 東 秀 子 法 律 事 務 所
TEL 011−272−5000
FAX 011−272−0844
原告三名代理人 弁護士 伊 東 秀 子
損 害 賠 償 等 請 求 事 件
訴訟物の価額 金6,072,000円
添用印紙額 金38,600円
請 求 の 趣 旨
1 被告らは原告各人に対し、連帯して金200万円およびこれに対する本
訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社アースキュアは北海道新聞朝刊全道版に別紙記載の謝罪広
告(2B×2段)を掲載せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行宣言を求める。
請 求 の 原 因
第1,当事者
1 原告カルトハウス・オラフ(以下「カルトハウス」という)は、ドイ
ツ国籍を有し、OOOOOOOOOOOOに助教授として勤務する者である。平
成O年O月O日、OOOOOOOOと婚姻し、長男OOOOOOOOO(平成2年O月
OO日生・同12年O月OO日死亡)と(OOOOOOOOOOOOOOOOOOOO)
子供がおり、住所地にて生活している。
2 原告サザーランド・ケネスリー(以下「サザーランド」という)はア
メリカ合衆国の国籍を有し、OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO札幌市
内の会社に勤務している。平成O年O月O日、OOOOOOと婚姻し、住所
地にて生活している。
3 原告菅原有道出人(以下「有道出人」という)は、アメリカ合衆国の
国籍を有していたが、平成12年9月21日、日本国に帰化した。平成
O年O月OO日、OOOOOOOと婚姻し、OOOO二人の子とともに住所地に生
活し、OOOOOOO大学講師として勤務している。
4 被告株式会社アースキュア(代表者代表取締役小林勝幸)(以下「被
告会社」という)は、小樽市手宮1丁目5番20号において、小樽天然
温泉「湯の花」(以下単に「湯の花」という)を経営している株式会社
である。
5 被告小樽市は、被告会社に対する許認可権を有し、指導監督する権限
を有する地方自治体である。
第2,事実経過
1 被告会社について
A 原告カルトハウスと同有道出人は、1999年9月19日、それぞれ
の家族(妻及び子供たち)とともに、被告会社経営の「湯の花」を訪ね
た。当日、原告及びその家族の他に、日本人の夫と中国国籍の妻とその
子供二人、米国国籍の男性とその妻(日本人)と子供、日本人の男性等
がともに入浴するために「湯の花」を訪ねたものであった。
ところが、被告会社は「湯の花」の入口に「外国人の入場はご遠慮下
さい」旨の張紙を張っていた。原告らは上記張紙を無視して「湯の花」
の中に入り、入浴のためのチケットを購入した。
B ところが、日本人と子供たち(但し、ダニエルを除く)は入浴するこ
とができたが、被告会社の男性従業員(氏名不詳)は、原告カルトハウ
スと有道出人及び米国籍の訴外男性の3人に対して入浴することを拒否
した。
有道出人が同人に対して理由を尋ねたところ「わが社の経営方針とし
て外国人の入場を禁止しております。」「外国人が入りますと、よくト
ラブルが起き、日本人のお客さんが敬遠するためです。」と説明した。
同行の訴外米国人男性が「白人だけを禁止するのですか。先に入った
女性の中に、中国籍の女性もいましたよ。」と伝えたところ、男性従業
員は「ああ、彼女は中国人なのですか。それでは彼女も退場してもらい
ます。代金は全部返却します。」と答えた。
その時の会話を要約すると以下のとおりである。
有道出人 :「どうしてそんなポリシーを実施しているのですか。外国
人に関するどんな問題がありましたか。」
(同従業員はロシアの船員のマナー違反の説明をし、日本人のお客さん
が敬遠する結果になったことを説明した。)
有道出人 :「問題があったことは分かります。けれども、全ての外国
人がマナーを守らない人でもありません。我々は日本に永
住しているのです。家族も持って日本の社会に貢献してい
ます。こんなことでは、我が子にも悪影響を与えます。こ
のポリシーを改めるよう再検討してください。人種差別に
なります。
私の子供はご覧のように白人風の子と日本人風の子がお
りますが、どちらも日本国籍があります。彼女らが大きく
なってからも皮膚の色などの外見で排除するんですか。」
男性従業員:「そういうことになります。」
カルトハウス:「人種差別はフェアじゃないし、観光地の小樽市にとっ
ても、いい印象ではありません。」
男性従業員:「フェアではないことは分かります。私個人が変えること
が出来ません。」
有道出人 :「分かりました。では、支配人に伝えて下さい。『お酒、
酔っている人はお断り』、『入浴マナーはこれです』など
の看板を掲示して、マナー違反者を退場させるようにし、
外国人のみの理由で排除しないで下さいと。我々は皮膚の
色や人種を選ぶことが出来ません。マナー違反かどうか、
個々人の行動を見てからお断りして下さい。」
しかし最後まで、男性従業員は原告らの入浴を拒否し入場料を返却し
たため、原告らは仕方なく退出した。
C 上記の被告会社の対応は、原告らの子供たちにも精神的な影響を与え
た。
@ カルトハウスの長男ダニエル辰朗(当時9歳)は、原告らと「湯の
花」従業員の会話のやりとりを傍で見ていたが、父親(及び自分)が
外国人であることから差別されたことに精神的打撃を受け、家に帰っ
てからも「なぜ?」「なぜ?」を連発していた。
A 有道出人の長女亜美、二女杏奈は、小学校で友達から「ガイジン」
と言われ、何かと白眼視されることに心を痛めていたが、父親の入浴
拒否の事実とその理由が「ガイジン」であることを知ってからは、し
ばらくの間家の中に閉じこもり、父親と一緒の外出を拒否するように
なった。
D 平成12年1月3日、カルトハウスと有道出人は再び「湯の花」を訪
ね、代表者小林勝幸と入浴拒否問題について話し合った。
その際、小林は「一企業としてはどうしても経営のことを考えねばな
りません。この問題は小樽市に一番責任があります。市民の外国人嫌い
の考え方を変えようとしていません。小樽市民が外国人を嫌っているか
ら、我々は断らなければならない。小樽市が意識高揚のためのフォーラ
ムや説明会などねばり強い啓蒙活動でもやればなんとかなるのに。」な
どと言った。
E 平成12年10月31日、有道出人は再度「湯の花」を訪ね、入浴希
望を伝えた。この時、有道出人はすでに日本に帰化し日本国籍を取得し
ていたため(同年9月21日帰化)、従業員に対し、日本国籍取得を証
明する運転免許証を示しながら、「私は日本人である。入浴を希望した
い。」旨告げたところ、従業員は「私はあなたが日本人であることは免
許証を見たので判ります。でも、日本人のお客さんは外見で判断するの
であなたが日本人であることが判りません。やっぱりお客が嫌がります。
入場はお断りします。」と答え、有道出人の入浴を拒否した。
F 平成12年12月23日、原告サザーランドは「湯の花」を訪ね、入
浴のためのチケットを買おうとしていたところ、従業員はサザーランド
に対し、「外国人の方は入れません」と入浴を拒否した。
サザーランドが理由を尋ねたところ「そういう決まりになっておりま
す」と答えるのみで、理由を告げなかった。サザーランドはすでにチケ
ットを買っていたが、従業員はサザーランドにお金を返却したため、同
人はやむなく退出した。
(以下A・B・E・Fの事実を「本件差別」という)。
G 以上のような事実に対し、原告らは再三にわたり、人権団体(「一緒
企画」)をとおして「湯の花」の支配人小林に抗議し、差別的行為をや
めるよう要求したが、被告会社は約1年半にわたって原告らの入浴拒否
の方針を辞めなかったものである。
ところが、原告らが本件訴訟提訴の意志を公表したところ、平成13
年1月17日、被告会社は急遽「外国人の条件付受入れ」を表明したも
のである。
以上に述べてきた被告会社の一連の行為は、「外国人入場お断り」す
なわち外国人差別の形態をとってはいるが、実体は、有道出人が日本国
に帰化して以後も差別したことから明らかなように、むしろ人種差別行
為である。
2 被告小樽市について
平成11年9月19日の被告会社の原告らに対する本件差別の後、原
告らは被告小樽市(以下単に「市」という)に対して、被告会社の人種
差別行為をやめさせるために有効かつ適切な行動をとるよう要請したが、
市は有効な対処をしなかったため、被告会社の差別行為は中止されない
まま、1年半が経過した。
以下、市と原告らとの交渉経過である。
A 平成11年9月27日、カルトハウスの妻曳地由希は手紙にて市に対
して、上記差別行為の概要を報告し、市の適切な対処を要請した。
B 同年11年10月12日、市は次のとおり回答した。
「小樽市としてもこの問題は大変重要な問題と捉えており、今まで
再三にわたり施設側に改善について要請してきたところです。しか
しながら、市として民間の経営方針に対し、入浴拒否を理由に営業
の許可を取り消したりするなどの強制的な指導が法律上出来ない状
況にあります。しかし、「民間のやることだからわれわれは関与し
ない。」とは考えておりません。
外国人の方が入浴を断られているのは事実でありますので、何と
かこの解消に向けて、関係業界の理解が得られるよう、今後とも話
し合いをしていきたいと考えておりますのでご理解をお願いいたし
ます。」
C 同年10月14日、原告らは、市に対し、地方自治体として本件にど
のように対処するのかにつき質問状送付。
D 同年10月23日、原告らは市主催「第1回国際交流関連団体連絡会
議」が開かれることを知り、市総務部国際交流担当に電話して「参加し
たい」意向を伝えた。
ところが、市の職員三浦某氏は原告らの要望を却下した。
同年10月26日、市主催第1回国際交流関連団体連絡会議開催。外
国人出席者1人もなし。
E 同年11月1日、市は、原告らの質問状に対して次のように回答した。
「日本国憲法14条でも外国人の人権も守られると認めるが、憲法及
び人種差別撤廃条約を具体化した立法がないので差別をやめさせられな
い。」
「この問題は、相互理解による解決が必要であり、現在のところ条例
制定は考えておりません。」
F 同年11月2日、原告らは市主催で11月5日開催の「第2回国際交
流関連団体連絡会議」に出席したく、市総務部国際交流担当に参加希望
を電話したが、再び三浦某氏はその申し出を却下した。
G 同年11月5日、市主催第2回国際交流関連団体連絡会議開催。外国
人出席者1人もなし。
H 同年11月9日、原告らは市総務部国際交流担当主幹竹内一穂及び三
浦某氏と面会。原告らは温泉側・小樽住民及び外国人による「入浴拒否
問題」についてのフォーラム開催(市主催)と条例制定を申し入れした
が、両人はいづれも実行する予定はないと回答。
I 同年11月29日、ドイツ大使館は市長宛ての手紙で本件差別を強く
批判。
「当大使館としましては、伝統的に友好的な日独関係に鑑み、外見乃
至国籍のみを理由としたドイツ国民に対する差別を深刻な問題ととらえ
ております。」
J 同年12月17日、札幌の外国人人権支援グループが小樽市長へ改善
要求書を送付していたものに対して、小樽市長が「努力する」と文書で
回答。
K 平成12年1月13日、原告らは人権団体とともに、再度市及び市議
会に対して本件差別をなくすための人種差別撤廃条約の趣旨の条例化を
要請。
L 同年3月1日、市主催で「外国人入浴問題検討会議」が開催された。
しかし、原告らへの招待は24時間前であった。
M 同年5月7日付北海道新聞の「談論」において、市の国際交流担当竹
内一穂は「小樽市が先行して人種差別撤廃のための条例制定することは
時期尚早である。」と発表。
以上が本件差別に対して、被告市のとった対応である。この他に、市は
外国人に対する入浴方法や禁止事項をロシア語や英語で書いた「注意書」
を作成して、船舶代理店等に配布する行為を行った旨ホームページで主張
している。しかし、人種差別撤廃条約第2条第1項dに規定するところの
立法を含むすべての適当な方法による対処を行ったというには程遠く、結
果的に人種差別行為を放置していたものである。
第3,被告会社の行為の違法性及び法的責任
被告会社の一連の行為は各々、下記法律に違反する違法な行為であり、
その法的責任は免れない。
1 人種差別撤廃条約(条約の直接適用)
A条約への加入
1965年(昭和40年)12月21日、第20回国際連合総会にお
いて採択され1969年(昭和44年)1月4日効力の生じたいわゆる
人種差別撤廃条約は、1995年(平成7年)12月20日、我が国も
条約に加入し、締結国としての義務を負うことになった。
B人種差別撤廃条約の効力
@条約の国内法的効力
人種差別撤廃条約は、国内法としての効力を有するというのが通説
判例である。
A条約の直接的規範性
イ,人種差別撤廃条約は、個人・集団又は団体の人種差別行為を禁止
・終了させるために、立法その他すべての適当な方法による措置を
採るよう、締結国に義務づけている。(第2条第1項d)
ロ,条約の実体規定に該当する差別行為があった場合に、もし国又は
団体が実効性のある適当な措置(立法も含む)を採らなかった場合
には、これらの国又は団体に対してその不作偽を理由として損害賠
償その他の救済措置を求めることができるものである(第6条)。
ハ,わが国は、同条約加入の際、条約実施のために新たな立法措置及
び予算措置を必要としない旨外務省は説明を行った。
わが国の憲法が国際協調主義・基本的人権尊重主義を掲げ、国際
法の国内法的効力を認めていることを勘案するならば、私人間にお
いて条約の禁止する差別行為がなされた場合、直接、同条約を根拠
にして、私人に対しても損害賠償請求できると解釈することが憲法
の趣旨及び外務省説明の趣旨にも合致する。
ニ,また、国際人権法が国家だけでなく私人をも義務の名宛人に取り
込んでいるとする主張は、近年、国際社会において急速に深化して
いる。
女子差別撤廃条約は私人間における差別の撤廃を求め、市民社会
内部における差別を国際法上の人権問題として認知させることに大
きな効力を発揮した。
人種差別撤廃条約も女子差別撤廃条約と並び、国際社会の「公序」
として、私人間の行為をも対象としていると解することが国際法の
潮流に合致する。
C同条約の違背
@ 同条約は、条約により保証されるべき権利の一つとして「輸送機関
・ホテル・飲食店・喫茶店・劇場・公園等一般公衆の使用目的とする
あらゆる場所又はサービスを利用する権利」(第5条f)を掲げてい
る。
A 今回、被告会社が原告らに対して行った本件差別行為(「湯の花」
の入口に「外国人入場禁止」の張紙を張り、原告らが入浴することを
拒否した行為)は、まさに条約第5条fに該当する行為である。
D結 論
よって、被告会社は原告らに対し、同条約第5条f・同第6条に基き
損害賠償の責任を負うものである。
2 民法90条、同709条(条約の間接適用)
A静岡地裁浜松支部平成10年10月12日判決
上記判決は、人種差別撤廃条約の実体規定が不法行為要件の解釈基準
として作用することを認め、人種差別撤廃条約及び民法709条に基き、
ブラジル人女性が宝石店経営者に対して求めた損害賠償請求を認容した。
B条約の間接適用
もし仮に、同条約の私人間の直接適用が認められないとしても、上記
判決の判示したように同条約は憲法と同様にわが国の国内法の法律解釈
の基準となるものである。公の秩序への違背(民法90条)・不法行為
の成立要件である権利侵害・違法性の有無(同709条)については、
同条約の趣旨に合致するように判断されなければならない。
C結 論
被告会社の原告らに対する一連の行為は、公の秩序に反し、あるいは
原告らの人種差別に関する平等権を侵害する違法なものであり、不法行
為責任を免れないものである。
第4,被告小樽市の法的責任
1 人種差別撤廃条約上の義務
被告市は、外国との交流の多い湾港都市であり、自ら「国際都市」を
標傍している地方公共団体である。そのために、被告市は人種差別がな
いように、万全の措置を講じなければならない。
A 前述したとおり、同条約第2条第1項dは、国又は地方公共団体に対
していかなる個人・集団又は団体による人種差別も終了させるために、
立法を含むすべての適当な方法による措置を採るよう義務づけている。
B そして、国又は地方公共団体が実効性のある措置を採らなかった場合、
その不作為を理由として、損害賠償その他の救済措置を採りうると規定
している。(第6条)
C 人種差別が起る背景には、他国の文化や生活習慣を理解し尊重する姿
勢が欠けていることが多い。「文化に優劣なし」が国際化を進めるに当
っての大前提である。その国の文化は風土や長い歴史の中で培われたも
のであり、どの国の文化も対等の価値をもつからである。真の国際化を
すすめるには「文化の違いを認める」ことが全ての基礎となる。人間の
心は、往々にして、好き嫌いの感情のままに行動してしまうから、この
「文化の違い」を受け容れるためには、粘り強い啓蒙活動や教育が必要
となる。この責任を一民間会社に背負わせて済む筋合のものではない。
だからこそ、同条約は国や地方自治体に対して差別撤廃のための実効性
の確保を義務付けているのである。
D しかも同条約は、差別を無くすためのこの粘り強い行動を、単に形式
的なものに終わらせず実効性を確保するために、国や地方自治体に対し
て、「立法を含むすべての適当な方法により、いかなる個人・集団又は
団体による人種差別も禁止し、終了させる」ことを義務づけているので
ある。
たとえ努力してもそれが結果的に人種差別を放置したことになってい
る場合には、第6条により、被差別者は、国や団体に対して「差別の結
果として被ったあらゆる損害」を請求することができる。この点につい
て、前述の静岡地裁浜松支部判決は「我が国内において、人種差別撤廃
条約の実体規定に該当する人種差別行為があった場合に、もし国又は団
体に採るべき措置が採られていないかった場合には、同条約第6条に従
い、これらの国又は団体に対してその不作為を理由として少くとも損害
賠償その他の救済措置を採りうることを意味する」と判示している。
2 被告市の法的責任
A 被告会社が原告らに対して行った本件差別は、条約第5条fに該当す
る。被告市は、同条約第2条第1項dに基き、本件差別を撤廃するため
に例えば次のような措置を採るなど、あらゆる措置を採るべきであった。
@人種差別をなくするための民間施設への支援
被告会社のグループ会社は、平成1年から同10年にかけて小樽市
内において「グリ−ンサウナ」の名称で入浴施設を営業していたが、
ロシア人船員の客が徐々に増えるにつれ、日本人の客が減り、経営難
に陥っていった。ロシア人船員らは、日本の入浴マナーを知らないた
め、身体を洗わないで湯船に入ったり、サウナの椅子を湯船に入れた
り、水風呂に飛び込んで入ったり、浴室内で写真を撮ったりする等の
行為があり、同会社従業員はその行為を改めるよう、マナー指導に尽
力していた。
しかし、段々日本人客が減っていき、経営が行き詰まった。
そこで、被告会社のグループ会社は、被告市に対して「ロシア人船
員は、船にシャワーもないため入浴を強く希望している。私もこのま
までは経営が成りたたないので、商売をやめるか、外国人の入場をお
断りするしかない。外国人の人にも入浴してもらう今のままの経営を
続けるためには、税や水道料金の減免措置などの援助をしてほしい」
旨を申し入れたところ、被告市は「予算がない」と取り合わなかった
ものである。
このような場合、地方公共団体としては、他に「外国人の入場お断
り」の看板を掲げている入浴施設もあったことから、人種差別を未然
に防ぐための実効確保の措置として、民間への支援をするべきであっ
た。
A外国人に入浴マナーを学んでもらうための施設の設置
上記会社は、同施設を閉鎖した上、新たに別の入浴施設を開設しよ
うと考えたことから、市に対して次の申し入れをした。「同施設を今
回閉鎖することになったが、ロシア人船員の入浴希望をかなえ、かつ
彼等に入浴マナーを勉強してもらうための施設として、今後、市が同
施設を継続して営業してほしい。」しかし、被告市は「予算がない」
との理由から、その申し入れを拒否した。
被告市としては、ロシア人等の外国人が早く日本に溶け込んで、公
衆浴場のマナーを身につけることができるようにするため、講習のた
めの施設を設け、差別行為を禁止するために、事前の策を講ずるべき
であった。
B市民への啓蒙活動
差別意識は人の心の中に存在するものである。だから、その心を変
えていくための不断の努力が必要となる。
被告市は、市民の側の偏見や差別意識を解消するために、施設・市
民・外国人を対象とした意見交換会の定期的開催など、異文化理解を
深めるための啓蒙活動を行うべきであった。
C 人種差別撤廃条例の制定
小樽市内で、本件のように外国人を差別する行為が数年程前から見
受けられるようになり、外国人や人権団体から再三にわたる抗議を受
けていた。しかし被告市は、有効な対処をしなかったため、改善され
ないまま、本件差別に至ったものである。
よって、被告市としては、人種差別を撤廃するために、罰則のある
差別撤廃条例等を制定するなどして、差別をなくするための実効確保
措置を設けるべきであった。
B しかるに、被告市は上記のような差別撤廃のための実効性あるあらゆ
る措置を採ることを怠ったため、原告らは精神的苦痛と人格的名誉の侵
害を受け続けてきた。
C たしかに、被告小樽市は外国人に入浴マナーについての「注意書」を
配布したり、1年半の間に3回のフォーラムを開くなどの対策を講じた
が、それは差別をなくするのに有効なものではなかった。かつ、原告ら
のフォーラムへの積極的参加意向を無視し、本件に関する外国人側の考
えを聴く機会を設ける努力も怠った。また、平成12年夏に設置を表明
していた人権問題懇和会(仮称)も未だ設けていない。
D よって、被告小樽市は、同条約第2条第1項d・同第6条により、原
告らに対して損害賠償の責任を負うものである。
第5,損 害
原告らは、被告会社の人種差別行為及びそれに対して被告市が実効性
ある措置をとらなかったことにより、人間としての尊厳を著しく傷つけ
られ、人格的名誉を侵害されたものである。そのために、本件提訴を決
意し、弁護士に訴訟委任し、弁護士費用として各金10万円を支払った。
弁護士費用を含めた原告各人の損害は、金200万円を下らない。
第6,結 論
よって、原告らは被告両名に対し、人種差別撤廃条約・民法第709
条に基き連帯して金200万円の支払いと、被告会社に対し、北海道新
聞朝刊全道版に別紙記載の謝罪広告(2B×2段)の掲載を求める。
上記訴えを提起する。
以 上