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日本の人権擁護の経緯
日本における差別の日本政府の対処法について
国際連合人種差別撤廃委員会との報告、見解など
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1999-2003
サイトのまとまり、編集、コメントなどは帰化した日本人
有道 出人(あるどう でびと)
(2003年10月●●日公開)



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  1. 前書き:我が国日本の人種差別撤廃についてひと事(有道 出人 著)
  2. 日本政府 人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告 1999年6月発行
  3. 国際連盟 人種差別の撤廃に関する委員会 第58会期 人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解(2001年3月20日発行)、及び人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出(2001年10月発行)(対話フォーマット)
  4. 国内人権擁護団体の日本政府の見解の反論(リンク)

 注意:上記(2)人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告の件だが、1996年日本政府が人種差別撤廃条約を発効した際、2年毎定期報告を発行する公約したが、1998年に報告せず、遅滞して1999年に第一回と第二回を併せて発行した。
 
 尚、2002年度の定期報告は2003年10月現在、また遅れてまだ発行しておりません。



前書き
我が国日本の人種差別撤廃についてひと事
(有道 出人 著)
(2003年10月●●日現在)

 日本の人権擁護の経緯はたいへん複雑な問題です。特に、在日民族、外国人及び外見が外国人みたいな日本人に対して罰則のある差別撤廃法はありません。私は帰化した日本人としてそれぞれの社会問題を朝日新聞の「私の視点」のコラム(2003年6月2日付)で解説したが、我が国日本は1996年に国連の人種差別撤廃条約、かつ、1979年で●●●●を発効しました。前方の通り、

しかしながら、先進国のうち、人種等差別撤廃法のない国は日本のみであります。

日本政府は以降の報告らでは、

しかし、これはそれぞれのケースを見れば、差別撤廃の法制化の不作為による問題が様々生じます。



人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告(仮訳)
1999年6月発行

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/99/1.htmlより

I.総論

1.我が国は、1995年12月15日に「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(以下「人種差別撤廃条約」という。)に加入した。

 我が国の憲法は、その第14条第1項において、人種等の差別なくすべての国民が法の下において平等である旨明記している。我が国は、かかる憲法の理念に基づき、また、既に締結している経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約においても人種、民族を理由とするものも含め広く差別が禁じられていることを踏まえて、これまでも、人種、民族等も含めいかなる差別もない社会を実現すべく努力してきた。我が国は、人種差別撤廃条約への加入にあたり上記憲法の理念を再確認するとともに、今後もいかなる差別もなく国民一人一人が個人として尊重され、その人格を発展させることのできる社会をめざし、たゆまぬ努力を行っていきたいと考える。

2.こうした理念は、同時に我が国の国際社会における活動をも支えている。我が国は、国連の場等を通じて、人種、民族等に基づくいかなる偏見も払拭するためにあらゆる必要な措置を採る必要性を呼びかけ、一貫して人種差別に反対するとの基本的態度を表明してきている。また、人種差別撤廃に向けた決議の採択や、関連基金の設立、会議等の開催に関しては、その趣旨に積極的な支持を一貫して表明するとともに、人種差別撤廃のための10年行動計画信託基金に対し毎年拠出を行うなど、幅広く国際社会に貢献してきている。

  我が国憲法における基本的人権の尊重

3.我が国法体系における最高法規である憲法は、国民主権を基本原理とし、平和主義と並んで基本的人権の尊重を重要な柱の一つとしている。憲法の保障する基本的人権は、「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」(第97条)であり、基本的人権尊重の考え方は、「すべて国民は、個人として尊重される」(第13条)との思想に端的に示されている。この基本的人権には、(i) 身体の自由、表現の自由、思想・良心の自由、信教の自由等のいわゆる自由権的権利、(ii)教育を受ける権利、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利等のいわゆる社会的権利等が含まれている。基本的な原理である平等原則は、第14条第1項に「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定され、人種、民族等この条約の対象となる差別事由を含めいかなる差別もない法の下の平等を保障している。憲法が規定する基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものとされている。(注1)

4.憲法の定めるこれらの規定は、立法、行政及び司法の三権を拘束するものである。立法、行政及び司法の三権は、それぞれ国会、内閣及び裁判所に分属し、厳格な相互抑制の作用を通じ、人種差別撤廃を含めた人権擁護の面においても、遺漏なきを期している。

 国会は、「国権の最高機関」として、正当に選挙された国民の代表により構成され、「唯一の立法機関」として、立法権の行使を通じ、国民の権利と自由の擁護を図っている。内閣(行政府)は、国会が制定した法律を誠実に施行することを通じ、同じく国民の権利と自由の擁護を図っている(特に、行政府にあって人権擁護を直接の目的としている人権擁護機関の仕組みは、第6条を参照)。更に、国民の権利が侵害された場合には、裁判による救済を受け得るが(憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めている。)、憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するため、裁判官に「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(同第76条第3項)との立場を保障している。

5.我が国が締結した条約は、条約及び国際法規の遵守義務を規定する憲法第98条第2項の趣旨から、国内法としての効力を持つ。なお、条約の規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。

国土に関する情報

6.我が国の国土の総面積は37万7819kuであり、面積22万7909kuの本州、7万7979kuの北海道、3万6719kuの九州、1万8294kuの四国の4つの大きな島を含む6、852の島から成る。社会指標は、別添1参照。

人口に関する情報

7.1997年10月1日現在、日本の総人口は1億2616万6000人となっている。我が国では、人口を調査する際、民族性といった観点からの調査は行っていないので、日本の人口の民族構成については必ずしも明らかではない(注2)

 一方、「和人」(注3)との関係において北海道に先住していたアイヌの人々は、現在も独自の言語、文化等を有し継承等に努力しているなど民族としての独自性を保持しており、同地域におけるアイヌの人口は、1993年に北海道が実施した北海道ウタリ生活実態調査(注4)によれば、23,830人となっている(別添2参照)。

8.昨今、日本では、外国人登録者数が年々増加している(注5、参照)。法務省の外国人登録者数の統計によれば、1998年末現在、我が国の各市区町村に登録されている外国人の数は151万2116人(日本の総人口の1.20%)で、過去最高を更新している。この数は、5年前の1993年末に比べると19万1368人(14.5%)、10年前の1988年末に比べ57万1111人(60.7%)増加している。国籍(出身地)別に見ると、韓国・朝鮮が最も多く(全体の42.2%)、次いで中国(18.0%)、ブラジル(14.7%)となっている(別添4、5参照)。

9.難民については、1981年の「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」という。)及び1982年の「難民の地位に関する議定書」(以下「難民議定書」という。)の締結に伴い、従来の出入国管理令を改正して難民認定制度を新設し、法令の名称を「出入国管理及び難民認定法」に改称、1982年1月より実施しているが、1999年6月末までに、同制度に基づき難民と認定された者は、234人である。また、我が国ではインドシナ三国(ヴィエトナム、ラオス、カンボジア)から難民の定住を受け入れており、その数は1999年6月末で1万465人となっている。

アイヌの人々の現状

北海道ウタリ生活実態調査

10.アイヌの人々の生活の実態に関しては、これまで北海道庁により、1972年、1979年、1986年、1993年の4度にわたり、北海道ウタリ生活実態調査が実施されている(別添2参照)。1993年に実施された「北海道ウタリ生活実態調査」によれば、アイヌの人々の生活水準は以下のとおり着実に向上しつつあるが、アイヌの人々が居住する地域における他の人々との格差は、なお是正されたとはいえない状況にある。

 進学状況については、高校への進学率は87.4%、大学(短大)への進学率は11.8%となっており、進学率の推移をみると、高校及び大学への進学率は着実に向上しているが、まだ、アイヌの人々の住む市町村(以下「市町村」という。)の高校進学率96.3パーセント、大学進学率27.5パーセントに比べると格差がみられる。

 産業別就業者比率についてみると、第一次産業が34.6%でうち漁業が22.2%、第二次産業が32.4%でうち建設業が22.3%、第三次産業が32.0%でうちサービス業が13.1%となっており、前回調査に比べると、第一次産業への就職者の比率が減少し、第三次産業への就職者の比率が高くなっている。これも市町村と同様の傾向である。

 生活保護の適用状況についてみると、保護率(対人口千人比、保護を受けている人の割合)は38.8‰と、1986年の調査より22.1ポイント減少している。1972年調査では、アイヌの人々の住む市町村の保護率の6.6倍であったが、1979年の調査には、3.5倍、1986年の調査は2.8倍、さらに今回は2.3倍と徐々にその格差が縮小している。この点については、地区道路や生活館等の生活環境改善のための施設整備事業、生産基盤の整備等の農林漁業対策、アイヌ民芸品の販路拡大を図るための中小企業振興対策、雇用促進及び技術習得等の対策を北海道ウタリ対策として実施しており、これら施策の総合的な効果が生活保護適用状況についての格差の縮小につながっていると思われている。

11.同調査によれば、差別に関し、その状況は前回の調査時に比し大きく改善はされてはいるものの、学校や就職、結婚等において差別を受けたことがある、又は、他の人が受けたのを知っていると答えた人が17.4%いる。

北海道ウタリ福祉対策等

12.北海道庁は、1974年以来、4次にわたり「北海道ウタリ福祉対策」を策定し、上記の生活実態調査の結果等を踏まえつつ、教育、文化の振興、生活環境の整備、産業の振興等の施策を総合的に推進し、アイヌの人々の生活水準の向上と一般道民との格差の是正を図っている。例えば、進学状況等の格差を克服するため、高等学校及び大学に修学する者に対する入学支度金及び修学資金の助成(大学は貸付け)等を行い、進学を奨励している。

 政府は、北海道庁が進めている右施策に協力し、これを円滑に推進するため、1974年政府部内に「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係行政機関の緊密な連携の下に北海道ウタリ福祉対策事業関係予算の充実に努めている。

13.アイヌの人々の人権擁護に関しては、法務省の人権擁護機関が、「アイヌの人々と人権」と題した人権啓発資料を作成し、全国各地で配布するなどの啓発活動を行っている。特に、北海道内の法務局・地方法務局において、「アイヌの人々に対する理解を深めよう」を人権週間の強調事項としているほか、人権に関する講演会や研修会の場でアイヌ問題にも触れており、これらの講演会・研修会の場及び街頭でもパンフレットやチラシの配布を行っている。

ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会

14.このような状況の下、今後のウタリ対策のあり方について検討するため、1995年3月には内閣官房長官の要請に基づき「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」がスタートした。本懇談会では、我が国におけるアイヌの人々の位置づけにつき、自然人類学、歴史学、民族学、国際法等の学問的立場からヒアリングを重ねるなど様々な角度から議論するとともに、この分野の施策の新たな基本理念及び具体的施策のあり方等について検討が行われ、1996年4月に報告書が内閣官房長官に提出された。この報告書では、現在、アイヌの人々は、我が国の一般社会の中で、言語面でも、文化面でも他の構成員と殆ど変わらない生活を営んでおり、独自の言語を話せる人も極めて限られた数にとどまるという状況に至っているが、関係者の帰属意識や様々な取組みに照らし、アイヌの人々は民族としての独自性を保持している旨、また、中世末期以降の歴史の中で、和人との関係で我が国固有の領土である北海道に先住していたと認められるアイヌの人々の固有の事情に立脚し、アイヌ語や伝統文化の保存振興等を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現を目指すため、今後可能な限り立法措置を含め特段の措置を講じること等述べている。

15.政府は、右報告書の趣旨を尊重し、検討した結果、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化(以下「アイヌの伝統等」という。)が置かれている状況にかんがみ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現等を図ることを目的とする「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」案を国会に提出した。同法は、1997年5月に成立し、同年7月に施行されたところであり、国、地方公共団体及び指定法人は、同法に基づき、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究、アイヌ語を含むアイヌ文化の振興及びアイヌの伝統等に関する知識の普及啓発を図るための施策を推進しているところである。

在日外国人の現状

16.我が国では、外国人が日本に入国し在留するための基本的な枠組みとして、在留資格制度をとっている。すなわち、日本社会の健全な発展との調和の下に外国人の受け入れを図る観点から、「出入国管理及び難民認定法」において、外国人が入国し在留して従事することができる活動又は入国し在留することができる身分若しくは地位を類型化して「在留資格」として定め、外国人はこの在留資格のいずれかに該当するものでない限りは入国及び在留を認めないこととし、この「在留資格」を中心に外国人の入国及び在留の管理を行っている。我が国に入国し在留することが認められた外国人には、他の法律に特別の規定がある場合を除き、いずれか一の在留資格が決定される。外国人は、その取得した在留資格に応じて許容されている活動を行うことができるとともに、在留資格に対応する在留期間中の在留が保障される。また、外国人の身分関係及び居住関係を明確にし、在留外国人の公正な管理を行うため、外国人には外国人登録法に基づきその居住地の各市区町村長に登録することが義務づけられている。

17.1998年末現在、在留の資格別にみると、外国人登録者数全体の41.4%は特別永住者及び永住者、17.5%が「日本人の配偶者等」、14.0%が「定住者」となっている。

 就労が認められている在留資格の外国人は、7.9%となっている。就労が認められている外国人の数は、1998年末は11万8996人で、前年に比し1万1698人(10.9%)増加している。

 出身地域別にみると、「興行」の91.6%、「技術」の85.5%、「技能」の88.2%はアジア地域出身者が占めている。また、「教育」の64.6%、「宗教」の53.7%は北米地域出身者が占めている(注6)

18.外国人労働者の受け入れについては、1995年12月に「第8次雇用対策基本計画」を閣議決定し、「専門的、技術的分野の労働者については可能な限り受け入れることとし、我が国経済、社会等の状況の変化に応じて在留資格に関する審査基準を見直す。一方、いわゆる単純労働者の受け入れについては、雇用機会が不足している高年齢者等の圧迫、労働市場における新たな二重構造の発生、景気変動に伴う失業問題の発生、新たな社会的費用の負担等我が国経済社会に広範な影響が懸念されるとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを求めつつ、十分慎重に対応する」こととしている。我が国で単純労働に従事する意図を有する外国人については、上述の方針に基づき原則として入国を認めていない。既に入国し、出入国管理及び難民認定法に違反して不法に就労している者については、原則として国外に退去強制することとなるが、これらの者への賃金の不払い、労働災害(不法滞在者でも労働災害保険に基づく保護を受けることができる)などの事実が判明したときは、所要の救済措置がとられるよう関係政府機関が連携を図ることにより対処するなどしている。

19.不法残留者数は、1990年7月1日時点10万6,497人であったものが、91、92年に激増し、1993年5月1日時点の29万8646人をピークとしてやや減少に転じたものの、1999年1月1日現在27万1048人であり、依然として高い水準で推移しているとみられる。なお、これらの者の就労期間が、以前は1年未満であったものが全体の半数以上を占めていたが、近年では1年を超えるものが全体の約70%を占め、不法就労期間の長期化の傾向がみられる。

 不法就労者の増大は、出入国管理行政の適正な運営を阻害するにとどまらず、それらの者の弱みにつけ込んだ中間搾取、強制労働等が行われるなど犯罪の温床ともなり、また人権侵害のケースも指摘されている。このため、不法就労を防止するために、事業主等に対する周知啓発、指導を行っているほか、関係省庁が連携の上、不法就労者の入国・就労に関与しているブローカー、暴力団関係者、悪質な事業主等の取り締まりを行っている。また、不法就労者の人権擁護の観点から、法務局の人権擁護機関においては、不法就労あるいは不法残留外国人からでも人権相談を受け付けており、相談があった場合には他の外国人と同様に取扱っているほか、プライバシーに配慮した対応を行っている。

在日外国人の人権

20.我が国の憲法は、在日外国人についても、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、基本的人権の享有を保障しており、これを受けて、政府は、(i)外国人の平等の権利と機会の保障、(ii)外国人の自己の文化、価値観の尊重、(iii)外国人との共生に向けた相互理解の増進等に積極的に取り組んでいるところである。

我が国は、1979年に、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約を批准したほか、1981年には難民条約、1982年には難民議定書に加入しており、さまざまな分野において日本国籍を有する者とそうでない者との間の平等を確保している。

21.例えば、教育については、公立義務教育諸学校で学ぶことを希望する外国人児童生徒に対して教育機会、待遇(授業料不徴収、教科書の無償給与等)の均等を保障している他、就労の分野においても、職業紹介等について、人種、民族等による差別的取扱いを受けることがないよう確保されており、労働条件についての国籍による差別的取扱いは罰則をもって禁じられている。また、住居についても、公的な住宅への入居に際しては、居住関係及び身分関係につき居住地の市町村に登録している者については、日本人と同様に入居申込資格を認めている。社会保障制度についても、内外人平等の原則にたって適用されており、例えば、国民年金、国民健康保険の加入、児童手当、児童扶養手当等の支給に当たり国籍要件は撤廃されている。また、生活保護制度についても、永住者、定住者等日本人と同様の生活をしている在日外国人については、行政上の措置として同一要件の下に同一内容の給付を行っている(以上第5条参照)。

 この他、地方自治体では外国人との共生を目指した地域づくりに向け、パンフレットの作成配布や外国人専用の相談窓口を設ける等主要外国語での各種情報提供の促進を図るとともに、直接外国人住民と接する場面の多い公務員への外国語教育や外国人への日本語教育についての施策を実施する等、外国人を対象とした行政サービスの充実に努めている。

22.一方、外国人居住者の急激な増加に伴い、言語、宗教、習慣等の違いから、私人間において、日常生活の様々な場面において差別的取扱いを受けるなど外国人を巡る人権問題が発生している。法務省の人権擁護機関が取り扱った事例の中には、外国人であることを理由に賃貸マンションへの入居を拒否されたり、村営プールへの入場を拒否される等の事案があった。政府では、これらの問題を在日外国人の重大な人権問題として受け止め、外国人との共生、外国人にとっても住み易い社会の実現に向け、外国人に対する偏見や誤解をなくすよう、あらゆる機会を通じて関係団体、機関に対し指導を行うとともに、国民全体の意識を高めるべく全国的に啓発活動を行っている(第6、7条参照)。

在日韓国・朝鮮人

23.日本に在住する外国人のうちの約3分の1を占める在日韓国・朝鮮人の大部分は、いわゆる日本の統治時代の36年間において(1910〜1945年)種々の理由により我が国に居住することなり、その間日本国籍を有していたが、第2次世界大戦後サンフランシスコ平和条約の発効(1952年4月28日)に伴い日本国籍を離脱し、その後引き続き日本に居住している者及びその子孫である。

 在日韓国・朝鮮人は、朝鮮半島が韓国と北朝鮮に分かれている現状から、彼らの自由意思に基づき韓国籍を取得している者及びこれを取得していない者に大別される。

 これらの者は、「特別永住者」として日本に在留しており、その数は、1998年末現在52万8450人にのぼる{なお、「特別永住者」の総数は、53万3396人で、韓国・朝鮮の他、中国が4349人いる。また、この他の国籍(出身地)の者もいる。}。地域別では、約半数が大阪を中心として近畿地方に、次いで約20%が東京都、神奈川県等関東地方に居住している。

 なお、在日韓国・朝鮮人の日本の社会への定着、帰化が進んでいることもあり、特別永住者として在留する者の人数は毎年減少傾向にある。

24.これらの者の基本的人権は、先に述べたとおり憲法等により保障されているが、日本国籍を有していないことから、参政権、入国の自由等通常外国人には与えられていない権利は与えられておらず、国内法上他の外国人と基本的に同等の取扱いとなっている。他方、これらの者の有する歴史的経緯及び定住性を考慮し、これらの者が日本でより安定した生活を営むことができるようすることが重要であるとの認識に立ち、種々の措置が講じられてきた。

25.これらの者のうち、在日韓国人三世以下の者の法的地位の問題については、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「日韓法的地位協定」という。)(注7)に基づき、韓国政府と1988年以来累次にわたり協議を重ね、1991年海部総理(当時)が訪韓した際に、その協議が決着し、その内容をとりまとめた覚書に日韓両国外相が署名を行った。

政府では、これらの協議の結果を踏まえ、在日韓国・朝鮮人の生活の安定に向け誠実に努力しており、以下のような措置がとられているところである。

(1)法的地位

26. 1991年1月に同協定の協議が決着した結果を踏まえ、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(以下「出入国管理特例法」という。)」が1991年5月10日公布、同年11月1日から施行された。同法は、終戦前から我が国に引き続き在留し、日本国との平和条約の発効により日本国籍を離脱した者及びその子孫について、その法的地位の一層の安定化を図ることを目的として、出入国管理及び難民認定法の特例を定めたものである。同法の対象者は、同法第2条においてサンフランシスコ平和条約国籍離脱者及びその子孫と定義され、特別永住者の資格を付与される。なお、同法は、上記のとおり日韓法的地位協定に基づく協議の結果を踏まえて制定されたものであるが、在日韓国人と同様の歴史的経緯及び定着性を有する在日朝鮮人、在日台湾人の人々についても、同様の法的地位を付与するのが適当であるので、同法においては、対象者の国籍は特に限定していない。 

 出入国管理特例法の優遇措置として、以下(a)〜(c)の措置がとられた。

 (a)退去強制事由の特例

27.特別永住者の法的地位のより一層の安定化を図るため、退去強制事由を極めて限定した。すなわち、その事由を内乱に関する罪並びに外患に関する罪、国交に関する罪(外国国章の損壊等、私戦の予備・陰謀又は中立命令の違背の罪)、外交上の利益に係わる罪(外国の元首や外交使節に対する暴行、名誉毀損等の種々の犯罪等)及び重大な国家的利益を害する罪(例えば、民主的法秩序を破壊する目的での爆発物取締罰則違反、殺人罪、放火罪等)に限定する。なお、現在のところ、この入管特例法第9条に規定する退去強制事由に該当して、退去強制された者はいない。

 (b)再入国許可の有効期間の特例

28.特別永住者については、企業の駐在員等として海外で勤務したり、海外に留学する場合を考慮し、当初の再入国許可の有効期限については4年(一般外国人は有効期間が1年)を超えない期間、日本国以外での延長の期間については1年を超えず、当初の許可から5年(一般外国人は2年)を超えない期間とする特例を設けることによって、特別永住者が長期にわたり海外で生活する場合にも対応できるようにした。

 (c)上陸の審査の特例

29.再入国許可を受けて出国した特別永住者が再入国する場合の入国審査官の上陸審査においては、出入国管理及び難民認定法第7条第1項に定める上陸のための条件のうち第1号の旅券の有効性のみを審査の対象とし、上陸拒否事由の該当性については審査しないこととすることによって、在留の安定化を図っている。

 (2)教育

30.日本の公立義務教育諸学校で、就学希望があれば、受け入れることとしており、授業料の不徴収、教科書の無償給与、上級学校への入学資格の付与について日本人の場合と同様に取り扱っている(第5条教育部分参照)。また、育英奨学金についても、我が国への永住許可を受けている在日韓国・朝鮮人等の在日外国人については、日本人の場合と同様に取り扱っている。

 日韓三世協議の際の「覚書」には、日本社会において韓国語等の民族の伝統及び文化を保持したいとの在日韓国人社会の希望を理解し、現在、地方自治体の判断により学校の課外で行われている韓国語や韓国文化等の学習が今後も支障なく行われるよう日本国政府として配慮する旨述べられており、上記内容を踏まえ、政府から地方自治体に対し、そのような学習が支障なく行われるよう配慮するよう指導を行っており、実際にいくつかの地方公共団体においてそのような学習機会が提供されている。

 この他、社会教育においても、公民館等の社会教育施設などにおける青少年、成人、女性等を対象とした学級・講座等の中で、地域の実情に応じて韓国・朝鮮語、韓国・朝鮮文化等の国際理解に関する多様な学習活動が行われている。

31.在日韓国・朝鮮人が日本の学校教育を受けることを希望しない場合は、その多くが韓国・朝鮮人学校に通学している。韓国・朝鮮人学校については、その殆どが各種学校(注8)として都道府県知事の認可を受けているところである。各種学校の教育内容については法令上特段の定めがなく、その修了者については一般的に高等学校(注9)卒業者と同等以上の学力があると認定することが困難であることから、大学への入学資格は与えられていない。

 なお、国内の外国人学校で学ぶ外国人生徒について、大学への進学の道を制度的に開くため、平成11年9月に大学入学資格検定の受検資格の弾力化を図ることとしている。また、大学を卒業していない者についても大学院において個々人の能力を審査することにより、大学院に進学できる道を開くため、同様に平成11年8月に大学院入学の弾力化を図ることとしている。

 (3)就労

32.就労については、上述のとおり職業紹介、労働条件等に関し人種、国籍等を理由とする差別的取扱いは禁止されている。政府では、在日韓国・朝鮮人について、就職の機会均等について正しい理解と認識を深めるための広報活動や不適正事業所に対する個別指導を実施するなどして、事業主等に対する指導、啓発に努めている。なお、我が国における外国人の公務員への採用については、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解されており、在日韓国・朝鮮人の公務員への採用についてもこの範囲で行われている。

33.在日韓国・朝鮮人については、国内外の社会情勢の変化、人権尊重の精神の国民への定着、学校・社会教育や法務省の人権擁護機関をはじめとする各省庁による指導、啓発活動、NGOの啓発努力等により、これらの者に対する理解は進み差別意識は確実に改善の方向に向かっているといえる。しかし一方では、就労、入居等に関する差別、差別言辞や差別落書き事案等、日常生活において依然私人間での差別が見られ(第4条、第6条参照)、そのような状況の中で、在日韓国・朝鮮人の中には、その本名を名乗ることによって起こる偏見や差別を恐れ、日常生活において日本名を通称として使用する場合もみられる。政府では、このような人類平等の精神に反する誤った偏見、差別意識が依然として一部に存在することを憂慮しており、被害者の救済に関する施策及び学校、社会教育の場における人権教育の充実に努めるとともに、引き続き各省庁において、関係機関、団体等に対し指導、啓発活動を行っていくこととしている(第7条参照)。

難民の現状

 (a)難民の取扱い

34.我が国は、1981年の難民条約及び1982年の難民議定書の締結に伴い、従来の出入国管理令を改正し出入国管理及び難民認定法とし、難民認定制度を新設して1982年1月より実施しており、難民認定申請が行われたときは、その都度該当案件について調査を行い、難民条約第1条及び同議定書第1条の「難民の定義」に該当するか否かにつき適正な判断を行い、これら条約に定める義務を誠実かつ厳正に履行している。また、受入れ後の待遇についても、同条約に従い、職業、教育、社会保障、住宅等において各種の保護及び人道的援助が与えられており、内国民待遇の確保に努めている。

1999年6月末までの難民認定事務の処理状況は以下のとおり。

受 理  1790

審査結果
認定   234
不認定  1170
取下げ  277
処理中  109

 (b)インドシナ難民

  (i)我が国の定住受入れ

35.我が国におけるインドシナ難民の定住受入れは、1978年より我が国に一時滞在しているヴィエトナム難民について定住を許可することから始まった。次いで、1979年よりアジア諸国に滞在中のインドシナ難民についても定住許可の対象とし、その後、2度の定住許可条件の緩和が行われ、インドシナ三国における政変前に留学生等として日本に滞在していた者や合法出国計画(ODP)に基づくヴィエトナムからの家族呼寄せによって入国する者についても定住が許可されることとなった。その後、定住促進のための体制が整備されるとともに、定住受入枠も漸次拡大され、1994年には受け入れ枠が廃止された結果、我が国に定住するインドシナ難民は、1999年6月末現在、1万465人に達している。その内訳は以下のとおり。

受入区分
国別

定住者
総計

国内の
一 時滞在施設

国外の
一時滞在施設

元留学生等

ODP

ベトナム人

7,900

3,534

1,814

625

1,927

ラオス人

1,306

-

1,233

73

-

カンボジア人

1,259

-

1,215

44

-

10,465

3,534

4,262

742

1,927


1999年6月末現在

(ii)インドシナ難民の定住促進策

36.政府は、1979年の閣議了解によって、インドシナ難民の日本への定住促進のため、日本語教育、職業訓練、就職あっせんなどを行うことを決定し、これらの業務を財団法人アジア福祉教育財団に委託することとした。それを受け、同財団では、難民事業本部を同財団内に設置、引き続き姫路(兵庫県)定住促進センター(1996年3月閉鎖)、翌1980年には大和(神奈川県)定住促進センター(1998年3月閉鎖)、1982年には大村(長崎県)難民一時レセプション・センター(1995年3月閉鎖)を設置した。また、1983年には、東京都に国際救援センターを開設した。現在、インドシナ難民の多くは、国際救援センターに6ヶ月間入所し、生活費の支給を受けながら日本語の教育を受講するほか、日本の社会生活へ適応するための指導等についても受けることとなっている。更に、右センターでは、希望する難民の児童に対しては養子、里親のあっせんを行う他、就職希望者には、職業紹介、職業訓練等を行っている。開設以来の実績としては、1999年6月末現在で、合計で入所者1万596名(既に閉鎖された3センターを含む)となっている。

 (iii)生活状況

37.1992年のインドシナ難民の定住状況調査(財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部実施)によると、比較的順調に定住が進んでいるといえる。就職状況は、昨今の景気の低迷によりインドシナ難民への求人条件も厳しくなりつつあるが、上記センターでは、インドシナ難民に対する理解の促進と雇用の一層の促進を目的に、毎年11月を「インドシナ難民雇用促進月間」と設定しているほか、雇用主懇談会を各地で開催しており、上記センターの修了者については、1998年度には就職希望者54名全員が就職している。職種は、金属加工、電気・機械器具・自動車組立、印刷製本等が大部分を占めている。 

38.このように、我が国の定住インドシナ難民の多くは、雇用主、地域社会の理解と支援に支えられて比較的順調に職場や地域社会に適応していると考えられる一方、定住難民の数が次第に増加していく中で、中には言語、習慣等の違いから日常生活において様々な問題に直面しているケースもみられる。このような状況を踏まえ、難民事業本部では、複雑化・専門化する相談内容と本人、その家族及び事業主等に対する綿密かつ長期間にわたる相談・指導に対応するため、「難民相談員」を本部及び国際救援センターに配置している。

 この他、インドシナ難民の円滑な定住にとって地域住民の理解と協力は不可欠であることから、同財団では、毎年「定住インドシナ難民とのつどい」を開催し、地域住民との交流による相互理解の増進に努めているとこ (原文のまま)

ENDS


人種差別の撤廃に関する委員会
第58会期
人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解

及び
人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する
最終見解に対する日本政府の意見の提出


注意:
それぞれの見解を読みやすくするために、「対話」のフォーマットのように編集しました。

国連の見解は青色です
日本政府の返答は緑色でです
注目すべき部分、またはこのサイトの編集者有道出人のコメントは赤色です

人種差別の撤廃に関する委員会 第58会期人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解(仮訳)

CERD/C/58/CRP.
CERD/C/58/Misc.17/Rev.3
2001年3月20日
原文:英語
未編集版
Courtesy
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/saishu.html

日本

1.委員会は、日本の第1回及び第2回定期報告(それぞれの提出期限は1997年1月14日、1999年1月14日)を、2001年3月8日及び9日に開催された第1443回及び第1444回会合において審査し、以下の最終見解を採択した。


A.序論

2.締約国との建設的な対話を開始する機会を特に歓迎する。 委員会は広範な政府省庁を代表する大規模な代表団が出席したことに意を強くした。また、締約国が認めているように、その最初の報告の準備に際し、NGOコミュニティが関わったことにも意を強くした。

3.委員会は、締約国が、報告作成のためのガイドラインに従って作成し提出した詳細かつ包括的な報告及び委員会の委員により行われた広範な質問事項に対し代表団が提供した口頭による追加的な情報を歓迎する。また、委員会は報告の審査の後提出された書面による追加的な回答を歓迎する。


B.肯定的要素

4.委員会は、いくつかの種族的及び民族的マイノリティの人権並びに経済的・社会的及び文化的発展を促進するために締約国が行った立法及び行政面での努力、特に、(i)1997年の人権擁護施策推進法、(ii)1997年のアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律、(iii)部落民に対する差別撤廃のための一連の同和対策事業特別措置法を歓迎する。

5.委員会は、アイヌの人々を、その独特の文化を享受する権利を有する少数民族として認めている最近の判例に関心をもって留意する。

6.委員会は、既存の人権基準の啓発に向けての取組み、特に、外務省のウエブサイトにあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約を含む基本的な人権に関する条約のテキスト全文を掲載し広報していることを歓迎する。委員会は、また、諸条約の実施状況に関する締約国の報告及びそれぞれの国連のモニタリング機関による最終見解についても同様の配布がなされていることを歓迎する。


C.懸念事項及び勧告

7.委員会は、人口の民族的構成比を決定することに伴う問題に関する締約国の意見に留意する一方、報告の中にこの点に関する情報が欠けていることを見い出している。委員会の報告ガイドラインにおいて要請されているように、人口の民族的構成比についての完全な詳細、特に、韓国・朝鮮人マイノリティ、部落民及び沖縄のコミュニティを含む本条約の適用範囲によってカバーされているすべてのマイノリティの状況を反映した経済的及び社会的指標に関する情報を次回報告の中で提供するよう、締約国に勧告する。沖縄の住民は、特定の民族的集団として認識されることを求めており、また、現在の島の状況が沖縄の住民に対する差別的行為につながっていると主張している。

8.本条約第1条に定める人種差別の定義の解釈については、委員会は、締約国とは反対に、「世系(descent)」の語はそれ独自の意味を持っており、人種や種族的又は民族的出身と混同されるべきではないと考えている。したがって、委員会は、締約国に対し、部落民を含む全ての集団について、差別から保護されること、本条約第5条に定める市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的権利が、完全に享受されることを確保するよう勧告する。

(つづく)



日本政府の返答:

人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する
最終見解に対する日本政府の意見の提出

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/iken.html より

1.パラ7の人口の民族的構成比について、韓国・朝鮮マイノリティ、部落民及び沖縄のコミュニティを含む本条約の適用範囲の全てのマイノリティの経済的及び社会的指標に関する情報を提供すべし、との勧告に関し、

(1)まず、アイヌの経済的社会的指標については、第1回・第2回報告と同様に次回も報告する。また、在日韓国・朝鮮人の経済的社会的指標についてどのような情報の提供が可能か、検討したい。

(2)他方、本条約の適用範囲については、次の通り考えている。

(イ)そもそも本条約の適用対象となる「人種差別」とは、本条約第1条1において、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別・・・」と規定している。このことから、本条約は、社会通念上、生物学的諸特徴を共有するとされている人々の集団、及び社会通念上、文化的諸特徴を共有するとされている人々の集団並びにこれらの集団に属する個人につき、これらの諸特徴を有していることに基づく差別を対象とするものであると解される。沖縄県に居住する人あるいは沖縄県の出身者は日本民族であり、一般に、他県出身者と同様、社会通念上、生物学的又は文化的諸特徴を共有している人々の集団であると考えられておらず、したがって、本条約の対象とはならないものと考えている。

(ロ)更に、本条約第1条1に規定する"descent"については、本条約の審議経緯において、"national origin(民族的出身)"という語が「国籍」という法的地位に基づく概念も含み得るかのような誤解を招くとの問題があり、その問題を解決するため、"national origin"に代わる語として"place of origin"とともに提案されたものである。しかし、その後、文言の整理が十分になされず、そのまま本規定中に残ったものであると承知している。

  このような審議経緯を踏まえれば、本条約の適用上、"descent"とは、過去の世代における人種若しくは皮膚の色又は過去の世代における民族的若しくは種族的出身に着目した概念を表すものであり、社会的出身に着目した概念を表すものとは解されない。

  他方、同和問題については、日本政府としては、同和対策審議会答申(1965年8月11日)の通り、「同和地区の住民は異人種でも異民族でもなく、疑いもなく日本民族、日本国民である」と考えている。


 (3)なお、我が国の国勢調査は、国内に居住するすべての人に申告義務を課して行う統計調査であることから、調査事項は、記入者負担等を考慮しつつ、国の基本的政策遂行上、必要最小限に限定して実施している。


2.パラ7の「沖縄の住民は、特定の民族的集団として認識されることを求めており、また、現在の島の状況が沖縄の住民に対する差別的行為につながっていると主張している。」について、

 (1)沖縄の住民が日本民族とは別の民族であると主張する人々がいることは承知しているが、それが沖縄の人々の多数意志を代表したものであるとは承知していない。また、上記1.(2)(イ)のとおり、沖縄県に居住する人あるいは沖縄県の出身者は日本民族であり、社会通念上、日本民族と異なる生物学的または文化的諸特徴を共有している人々であるとは考えられていない。

 (2)なお、委員会が指摘する「現在の島の状況が沖縄の住民に対する差別的行為につながっている」ということが具体的に何を意味しているのか必ずしも明確ではないが、沖縄の米軍施設・区域については、在日米軍施設・区域の75%が集中することによる沖縄県民への負担の負担の軽減のため、日本政府は米国政府とも協力しつつ、米軍施設・区域の整理・統合・縮小を図ったSACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終報告の着実な実施に全力で取り組んでいるところである。

 (3)また、米兵による事件・事故の防止については、日本政府としては、これまでも閣僚レベルを含め、累次の機会に米側に綱紀粛正と再発防止を申し入れてきており、今後とも事件・事故の未然防止に努めるよう米側に働きかけていく所存である。これに関連して、2000年秋より、米軍、国、地方自治体、地元警察、商工会議所等関係者により構成されるワーキング・チームにおいて、特に飲酒に絡む事件・事故の再発防止のためにとりうる具体策につき検討・決定するという協力体制が実施されている。


3.パラ8について

 (1)パラ8の本条約第1条の1にいう"descent"の意味については、日本政府としては上記1.(2)(ロ)のように理解しており、したがって委員会の"descent"の解釈を共有するものではない。

 (2)いずれにせよ、本条約の前文に謳われた精神を踏まえれば、同和問題のような差別も含めいかなる差別も行われることがあってはならないことは当然のことと考えており、同和関係者については、日本国憲法の規定により、日本国民として法の下に平等であることが保障されているとともに、日本国民としてしての権利をすべて等しく保障されていることから、市民的、政治的、経済的及び文化的権利における法制度上の差別は一切存在しない。

 (3)また、政府としては、同和地区の経済的低位性や生活環境等の改善を通じて同和問題の解決を図ることを目的として、同和対策事業特別措置法、地域改善対策特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律の3つの特別措置法を制定し、30年余にわたって各種の諸施策を積極的に推進してきた。

  これまでの国、地方公共団体の長年にわたる同和問題の解決に向けた取り組みにより、同和地区の生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備が概ね完了するなど、様々な面で存在していた格差は大きく改善され、また、差別意識の解消に向けた教育・啓発も様々な工夫の下に推進され、国民の間の差別意識も確実に解消されてきているものと考える。

(つづく)



(国連の最終見解はつづく)

9.委員会は、憲法第98条が、締約国によって批准された条約が国内法の一部であると定めているにもかかわらず、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の規定が、国の裁判所においてほとんど言及されていないことにつき、懸念をもって留意する。条約の規定の直接適用は、その規定の目的、意味及び文言を考慮して、個別のケース毎に判断されるとの締約国からの情報に照らし、委員会は、国内法における本条約及びその規定の地位につき、締約国から明確な情報を求める。

10.委員会は、本条約に関連する締約国の法律の規定が、憲法第14条のみであることを懸念する。本条約が自動執行力を持っていないという事実を考慮すれば、委員会は、特に本条約第4条及び第5条に適合するような、人種差別を非合法化する特定の法律を制定することが必要であると信じる。

(つづく)


日本政府の返答:

4.「最終見解」パラ9について

 (1)裁判所における個別具体的事件に関する条約の規定の適用の在り方については、政府としてコメントすべき立場にはないが、一般論として考えた場合に、(a)裁判所が判決においていかなる法規を適用するかについては、当事者が主張した事実や提出した証拠に基づいて裁判所が認定する事実を前提とするという制約があること、(b)条約の規定の趣旨がすでに国内法の規定に反映されていることなどから、条約の規定そのものを適用しなくても判決の結論に影響しない場合も少なくないこと、などの点にかんがみれば、裁判例の中に本条約の規定に言及している事案が少ないからといって、直ちに裁判所が本条約の適用に消極的であるとの結論にはならないと考えられる。

 (2)国内法における本条約及びその規定の地位については、我が国の憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び確立した国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定しており、我が国が締結し、公布された条約等は国内法としての効力を持つ。我が国の憲法には、我が国が締結した条約と法律との関係についての明文の規定はないが、一般的に条約が法律に優位するものと考えられている。

  ただし、本条約の実体規定(第2条〜第7条)が、「締約国は、....約束する。」等と規定していることからも明らかなとおり、そもそも直接個人の権利義務を創設するものではなく、締約国に対して人種差別の撤廃の義務を課しているものと考えられる。我が国は、第1回・第2回政府報告で報告したとおり、本条約が締約国に課している義務を誠実に履行している。

(つづく)


(国連の最終見解はつづく)


11.委員会は、本条約第4条(a)及び(b)に関し、「日本国憲法の下での集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と整合する範囲において日本はこれらの規定に基づく義務を履行する」旨述べて締約国が維持している留保に留意する。委員会は、かかる解釈が、本条約第4条に基づく締約国の義務と抵触することに懸念を表明する。委員会は、その一般的勧告7(第32会期)及び15(第42会期)に締約国の注意を喚起する。同勧告によれば、本条約のすべての規定が自動執行力のある性格のものではないことにかんがみれば、第4条は義務的性格を有しており、また人種的優越や憎悪に基づくあらゆる思想の流布を禁止することは、意見や表現の自由の権利と整合するものである。

(つづく)


日本政府の返答:
5.「最終見解」パラ10について

 (1)第4条及び第5条に関して、まず、第4条の(a)及び(b)については、処罰立法することを義務づけているが、以下6.で述べるように、わが国は憲法と抵触しない限度において第4条の義務を履行する旨留保を付している。第4条(c)については、締約国がとるべき具体的な措置について何ら規定されていないことから、各締約国の合理的な裁量に委ねられているものと解される。また、第5条においてはその柱書に「条約第2条に定める基本的義務に従い...」とあり、第2条の定める義務の範囲を超えるものではないと解されるが、一方、第2条1では、すべての適当な方法によりと規定されていることから明らかなように、立法措置は、状況により必要とされ、かつ立法することが適当と締約国が判断した場合に講じることが求められていると解される。我が国の現状が、既存の法制度では差別行為を効果的に抑制することができず、かつ、立法以外の措置によってもそれを行うことができないほど明白な人種差別行為が行われている状況にあるとは認識しておらず、人種差別禁止法等の立法措置が必要であるとは考えていない。

 (2)なお、人種差別思想の流布や表現に関しては、それが特定の個人や団体の名誉や信用を害する内容を有すれば、刑法の名誉毀損罪、侮辱罪又は信用毀損・業務妨害罪で処罰可能であるほか、特定の個人に対する脅迫的内容を有すれば、刑法の脅迫罪等により処罰可能である。また、人種差別的思想を動機、背景とする暴力行為については、刑法の傷害罪、暴行罪等により、処罰可能となっている。

 (3)また、私人による差別について、不法行為が成立する場合には、そのような行為を行った者に損害賠償責任が発生するほか(民法709条等)、公序良俗違反の法律行為である場合には、民法90条により無効とされる。

 (4)法務省に設置された人権擁護推進審議会においては、1999年9月から「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」について本格的な調査審議が行われ、2001年5月に人権救済制度の在り方についての答申がなされた。

  答申では、政府からの独立性を有する人権委員会(仮称)を中心とする新たな人権救済制度を創設、整備し、同委員会は、一定の人権侵害に関して、より実効性の高い調査手続と救済手法を整備した積極的救済を図るべきであるとしており、その積極的救済を図るべき人権侵害について、人種差別撤廃条約の趣旨も踏まえ、人種・皮膚の色・民族的又は種族的出身等を理由とする社会生活における差別的取扱いや人種等にかかわる嫌がらせを含む形で、その範囲を明確にする必要があると提言している。

  政府としては、同審議会の答申を最大限尊重し、提言された新たな人権救済制度の確立に向けて、全力を尽くしていく考えである。

(つづく)



(国連の最終見解はつづく)

12.人種差別の禁止全般について、委員会は、人種差別それのみでは刑法上明示的かつ十分に処罰されないことを更に懸念する。委員会は、締約国に対し、人種差別の処罰化と、権限のある国の裁判所及び他の国家機関による、人種差別的行為からの効果的な保護と救済へのアクセスを確保すべく、本条約の規定を国内法秩序において完全に実施することを考慮するよう勧告する。

(つづく)


日本政府の返答:

6.パラ11の第4条(a)及び(b)の留保に対する委員会の懸念表明について

 人種差別撤廃委員会の一般的勧告7及同15については我が方も十分承知しているところであるが、第4条の定める概念は、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広いものが含まれる可能性があり、それらのすべてにつき現行法制を越える刑罰法規をもって規制することは、その制約の必要性、合理性が厳しく要求される表現の自由や、処罰範囲の具体性、明確性が要請される罪刑法定主義といった憲法の規定する保障と抵触する恐れがあると考えたことから、我が国としては、第4条(a)及び(b)について留保を付することとしたものである。

 また、右留保を撤回し、人種差別思想の流布等に対し、正当な言論までも不当に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の扇動が行われている状況にあるとは考えていない。

(つづく)



(国連の最終見解はつづく)

13.委員会は、高官による差別的発言及び、特に、本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念を持って留意する。締約国に対し、将来かかる事態を防止するために適切な措置をとり、また本条約第7条に従い、人種差別につながる偏見と戦うとの観点から、特に公務員、法執行官、及び行政官に対し、適切な訓練を施すよう要求する。

(つづく)





(国連の最終見解はつづく)

14.委員会は、韓国・朝鮮人、主に児童、学生を対象とした暴力行為に係る報告及びこの点に関する当局の不十分な対応に対し懸念を有するものであり、政府に対し、当該行為を防止し、これに対処するためのより毅然たる措置をとることを勧告する。

(つづく)




(国連の最終見解はつづく)

15.在日の外国国籍の児童に関し、委員会は小学及び中学教育が義務的でないことに留意する。委員会は、更に、「日本における初等教育の目的は、日本人をコミュニティのメンバーたるべく教育することにあるため、外国の児童に対し当該教育を受けることを強制することは不適切である。」との締約国の立場に留意する。委員会は、
強制が、統合の目的を達成するために全く不適切であるとの主張に同意する。しかしながら、本条約第3条及び第
5条(e)(v)との関連で、委員会は、本件に関し異なった取扱いの基準が人種隔離並びに教育、訓練及び雇用に
ついての権利の享受が不平等なものとなることに繋がり得るものであることを懸念する。締約国に対し、本条約
第5条(e)に定める諸権利が、人種、皮膚の色、民族的又は種族的出身について区別なく保障されることを確保
するよう勧告する。

(つづく)





16.委員会は、韓国・朝鮮人マイノリティに対する差別に懸念を有する。韓国・朝鮮人学校を含む外国人学校のマイ
ノリティの学生が日本の大学へ入学するに際しての制度上の障害の幾つかを除去するための努力は払われている
が、委員会は、特に、韓国語での学習が認められていないこと及び在日韓国・朝鮮人学生が高等教育へのアクセ
スについて不平等な取扱いを受けていることに懸念を有している。締約国に対し、韓国・朝鮮人を含むマイノリ
ティに対する差別的取扱いを撤廃するために適切な措置をとることを勧告する。また、日本の公立学校において
マイノリティの言語での教育へのアクセスを確保するよう勧告する。

(つづく)





17.委員会は、締約国に対し、先住民としてのアイヌの権利を更に促進するための措置を講ずることを勧告する。こ
の点に関し、委員会は、特に、土地に係わる権利の認知及び保護並びに土地の滅失に対する賠償及び補償を呼び
かけている先住民の権利に関する一般的勧告23(第51会期)に締約国の注意を喚起する。また、締約国に対し、
原住民及び種族民に関するILO第169号条約を批准すること及び(又は)これを指針として使用することを慫慂す
る。

(つづく)





18.日本国籍を申請しようとする韓国・朝鮮人が自分の氏名を日本語名に変更することを求められるいかなる行政的
又は法的要件ももはや存在しないことに留意するが、委員会は、伝えられるところによれば、当局が引き続き申
請者に氏名を変更するよう求めており、また、韓国・朝鮮人は差別を恐れそのようにせざるを得ないと感じてい
ることに懸念を表明する。個人の氏名は文化的・民族的アイデンティティの基本的な要素であることを考慮しつ
つ、委員会は、締約国に対し、このような慣行を防止するために必要な措置をとるよう勧告する。

(つづく)





19.委員会は、締約国に受け入れられた難民の数が最近増加していることを留意しつつ、待遇に関する異なった基準
が、一方でインドシナ難民に、他方で限られた数の他の国民的出身の難民に適用されていることを懸念する。イ
ンドシナ難民は住居、財政的支援及び政府の援助による日本語語学コースへのアクセスがあるのに対し、これら
の援助は概して他の難民には適用されていない。委員会は、締約国に対し、これらのサービスについてすべての
難民に対して等しい給付資格を確保するための必要な措置をとることを勧告する。また、この観点から、締約国
に対し、すべての避難民が有する権利、特に、相当な生活水準と医療についての権利を確保するよう勧告する。

(つづく)





20.委員会は、国家賠償法が本条約第6条に反し、相互主義に基づいてのみ救済を提供することに懸念を有する。

(つづく)





21.委員会は、締約国に対し、今後の報告書の中で、特に、裁判所による適切な補償の提供を含めた本条約の違反に
特に関係している判例について報告することを要請する。

(つづく)





22.委員会は、次回の締約国の報告が、ジェンダー並びに国民的及び民族的集団に分類した社会・経済的データ、並
びに性的搾取と暴力を含むジェンダーに関連した人種差別を防止するためにとられた措置に関する情報を提供す
ることを勧告する。

(つづく)





23.締約国に対し、次回の報告に、(i)1997年の人権擁護施策推進法及び人権擁護推進審議会の任務及び権限、(ii)
1997年のアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律、(iii)地域改善対策
特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律及び同法律が2002年に終了した後に、部落民に対する差別を
撤廃するために考えられている戦略、の影響に関する更なる情報を提供するよう求める。

(つづく)





24.締約国が本条約第14条に規定する宣言を行っていないことに留意し、委員会はこのような宣言の可能性につき検
討するよう勧告する。

(つづく)





25.委員会は、締約国に対し、1992年1月15日に第14回締約国会合において採択された本条約第8条6の改正を批准する
よう勧告する。

(つづく)





26.委員会は、締約国に対し、報告を提出した時点から直ちにこれを一般に公開し、また、報告書に関する委員会の
最終見解についても同様に公開するよう勧告する。

(つづく)





27.委員会は、締約国に対し、第3回定期報告を、第4回定期報告と併せて、2003年1月14日までに提出し、また、同報
告にはこの最終見解の中で取り上げられたすべての点を含むことを勧告する。

(訳注:訳文中の「締約国」は日本を指す)

(終わり)










7.パラ12の、人種差別の処罰化及び人種差別的行為からの効果的な保護と救済を確保すべきとの勧告につ
いて

 上記6.のとおり、我が国は、憲法の保障する表現の自由等の重要性にかんがみ、本条約の締結に際
し、右保障と抵触しない限度で第4条(a)及び(b)の義務を履行する旨の留保を行っているが、かかる
範囲での処罰立法義務については、上記5.のとおり、名誉毀損等既存の刑罰法規で十分に担保されてお
り、また民事上の手続により損害賠償請求が可能であるなど、上記留保の下、本条約上の義務の履行を
確保する国内法は整っている。
 この他、法務省の人権擁護機関においては、人権尊重の普及高揚を図る立場から、人種差別の問題も
含めあらゆる差別の問題について積極的に啓発活動を行い、また、人権相談所を設けて差別を受けた方
からの相談に応じているほか、具体的に基本的人権の侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権
侵犯事件として速やかに調査し、侵犯事実の有無を確かめ、その結果に基づき、事案に応じた適切な処
置を講じるよう努めているところである。
 法務省に設置された人権擁護推進審議会においては、人種差別についても、人種差別撤廃条約の趣旨
も踏まえて、救済施策が検討され、2001年5月に出された人権救済制度の在り方についての答申において
は、政府からの独立性を有する人権委員会(仮称)を中心とする新たな人権救済制度を創設、整備し、
同委員会は、人種・皮膚の色・民族的又は種族的出身等を理由とする社会生活における差別的取扱いを
含む一定の人権侵害に関して、より実効性の高い調査手続と救済手法を整備した積極的救済を図るべき
であると提言している。
 政府としては、同審議会の答申を最大限尊重し、人種等を理由とする差別的取扱い等による被害者に
ついても実効的な救済を図ることができるよう、提言された新たな人権救済制度の確立に向けて、全力
を尽くしていく考えである。

8.パラ13の「委員会は、高官による差別的発言及び、特に本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる
行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合
にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念をもって留意する。」に関し、

(1)
第4条柱書は、締約国が非難すべき対象を、ある人種の優越性等の思想若しくは理論に基づく宣伝
等又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てる宣伝等に限定しているこ
とからも明らかなように、同条は、人種差別の助長等の意図を有する行為を対象として締約国に一
定の措置を講ずる義務を課しており、そのような意図を有していない行為は、同条の対象とはなら
ないと考えている。

(2)
かかる解釈をとっている国は我が国のみではなく、例えば英国の1986年の公共秩序法第18条第5項
には、「人種的憎悪を扇動する意志があったことが証明されなかった者は、その言葉、行動、筆記
物が脅迫的、虐待的、侮辱的であるとの意識がなくかつそれに気づかなかった場合には、本条の下
の犯罪として有罪にはならない。」と規定している。

(3)
また、「人種主義とメディア」に関する共同声明(意見と表現の自由に関する国連特別報告者、メ
ディアの自由に関するOSCE(欧州安保協力機構)代表及び表現の自由に関するOAS(米州機構)
特別報告者による共同声明)の中でも、差別的な発言に関する法律は、「何人も、差別、敵意ない
し暴力を扇動する意図をもって行ったことが証明されなければ、差別的発言(hate speech)のため
に罰するべきではない。」とされている。


9.パラ13の「公務員、法執行官、及び行政官に対し適切な訓練を施すよう要求する。」について、

 従来より国家公務員に対して各種研修においても人権に関する科目をカリキュラムに積極的に取り入
れ、その中で人権諸条約及び人権尊重を謳っている我が国憲法の理念を徹底して教育している。
 警察官については、新たに採用された警察官や昇任した警察官に対して各級警察学校で行う研修にお
いて、人権の基本法である憲法又は職務倫理、社会等の授業の中で、人権の尊重や人権関係諸条約等人
権の擁護に関する授業を行っている。
 また、警察業務が人権に深く関わりを持つ職務であることから、職場における研修等あらゆる機会を
とらえ、人権関係諸条約及び憲法の趣旨を踏まえ、人権に配慮した職務執行が行われるよう教育を行っ
ている。
 裁判官についても、検察官及び弁護士とともに、司法研修所において修習を受けた後、法曹資格を取
得するが、修習中の講義において、国際人権規約や外国人の人権に関する諸問題が取り上げられてい
る。また、裁判官に任官した後も、司法研修所での各種研究会において、国際人権規約等人権問題に関
するカリキュラムが設けられている。
 このように我が国では、公務員や法執行官及び行政官に対し、人種差別撤廃を含む人権教育を行って
おり、今後とも更に右教育の充実に努めていく所存である。

10.パラ14の「委員会は、韓国・朝鮮人、主に児童、学生を対象とした暴力行為に係る報告及びこの点に関
する当局の不十分な対応に対し懸念を有するものであり、政府に対し、当該行為を防止し、これに対処
するためのより毅然たる措置をとることを勧告する。」に関し、

(1)
我が国においては、こうした暴力行為については、刑法に定める殺人罪、傷害罪、暴行罪、暴力行
為等処罰に関する法律違反等により、処罰の対象とされており、人種差別的動機に基づく暴力行為
については、法と証拠に基づき厳正に処分を行うよう努めている。

(2)
警察では、過去この種の事案については、被害が予想される場所における警戒強化、登下校の時間
帯における警戒強化、関係機関との連携及び学校側との協力などにより、新たな事案の未然防止を
図っている。
 また、刑事訴訟法第189条第2項において、司法警察職員は、犯罪があると思料するときは捜査す
るものとすることが規定されており、日本国憲法第14条第1項に定める法の下の平等を遵守して、
当該事件の被害者が日本人であると外国人であるとを問わず、事件解決のため、積極的に捜査を行
ってきているところであり、最終見解における「不十分な対応」との指摘は当たらない。

(3)
また、法務省の人権擁護機関は、この種の事案に対し、速やかに情報を収集するとともに、在日韓
国・朝鮮人児童・生徒が多数利用する通学路、利用交通機関等において、差別の防止を呼びかける
街頭啓発、啓発冊子等の配布及び啓発ポスターの掲示等を行うなど、かかる事態を防止するための
積極的な啓発活動を行っている。今後とも、人権侵犯の疑いのある事案については、積極的に調査
を行って事案に応じた適切な措置を講じるとともに、関係者に対して人権尊重思想を啓発すること
としている。


11.パラ15について

(1)
外国籍の児童が日本の教育を受けることを選択しなかった場合、日本の学校教育を受けた児童と、
その後の教育及び訓練、雇用において何らかの差異が生じる可能性があることは否定できない。

(2)
そうした差異が、条約第5条(e)の経済的、社会的及び文化的権利の侵害につながるものであっては
ならないことは当然であり、我が国の制度において、右権利は、人種、皮膚の色または民族的若し
くは種族的出身による差別なく保障されている。


12.パラ16の「在日韓国・朝鮮人学生が高等教育へのアクセスについて不平等な取扱いを受けていることに
懸念を有している。」について、

(1)
我が国では、1999年9月に規程を改正し、韓国・朝鮮人学校等の外国人学校等の卒業者について、
大学入学資格検定の受検による大学入学資格の取得を可能としたところである。また、1979年以
降、インターナショナル・スクール等の卒業者が、スイスの非営利教育団体が実施する国際バカロ
レア資格を取得した場合にも、大学入学資格が認められている。

(2)
公教育のスタンダードを満たさない外国人学校の卒業者について、上記(1)のように個々人が学
力面で一定の要件を満たすことにより大学入学資格を取得できるとの取扱いは、世界各国において
も同様であると理解しており、不平等な取扱いとの指摘は適当ではない。

(3)
なお、主として韓国・朝鮮人学生が在籍する学校でも、一定の公教育のスタンダードを満たせば、
正規の学校として認可を受けることが可能であって、現に認可を受けている学校の卒業生には当然
に大学入学資格が認められており、当該学校がこのような認可を受けるか否かは、その選択に任さ
れている。


(参考)
 諸外国における外国人学校の位置づけや大学入学資格の扱い等について、米、加、英、仏、
独、スイス、伊、豪、印、シンガポール、タイ、韓国、中国等23カ国・地域を対象に調査を実施
した(1999年7月公表)。その結果、外国人学校卒業者の高等教育機関への進学について、各大
学の判断に任せている国等も一部にあるが、制度上外国人学校の卒業のみにより所在国の大学入
学資格を認めている国はないに等しく、当該校の卒業に加え、国際バカロレア資格等の一定の資
格あるいは所在国の全国統一試験の成績等を要件として所在国の大学入学資格を取得できる場合
が多い。

13.パラ16の「日本の公の学校においてマイノリティの言語による教育が確保されるべきと勧告する。」に
ついて、

(1)
勧告に言う「マイノリティ言語による教育」が具体的にどのような教育を指すのか明確ではない。
本条約の各締約国にはそれぞれ言語的マイノリティが存在すると思われるが、日本国政府として
は、多くの国において、マイノリティ言語のみを用いた公教育が行われているとは承知していな
い。したがって、日本においてマイノリティ言語によってすべての公教育が行われているわけでは
ないということをもって、日本の公教育が人種差別的であるとするのは適当ではないと思われる。

(2)
第2に、本条約において定められた教育についての権利が人種、皮膚の色、民族的または種族的出
身について区別なく保障されることを確保するという点に関しては、マイノリティ言語を使用する
子どもに対して、希望する場合には公立の小・中学校に受け入れ、日本人と同一の教育を受ける機
会を提供しており、その際、子どもたちが円滑に日本の教育を受けられるようにするとの観点か
ら、日本語指導、教師による支援、更には彼らの母語(マイノリティ言語)を話せる者による支援
等、マイノリティ言語を使用する子どもたちに最大限の配慮をしている。例えば、日本語の不自由
な韓国・朝鮮人の児童生徒に対して韓国・朝鮮語を話せる者と教師が協力して、日本語指導も含め
円滑に教育が受けられるよう支援している。

(3)
こうした取り組みにより、既に我が国では、本条約に定められた教育についての権利は確保されて
いると認識している。


14.パラ17の「委員会は締約国に対し、先住民としてのアイヌの権利を更に促進するための措置を講じるこ
とを勧告する」に関し、

(1)
アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施
策に関する基本方針(平成9年9月18日総理府告示第25号)に盛り込んでいるとおり、我が国として
は、アイヌの人々は、少なくとも中世末期以降の歴史の中では、当時の「和人」との関係において
北海道に先住していたと考えられており、独自の伝統を有し、日本語とは異なる言語系統のアイヌ
語や独自の風俗習慣をはじめとする固有の文化を発展させてきた民族であると認識している。

(2)
しかしながら、「先住民」という言葉の定義については、国際的な定義がなく、上で述べたような
意味においてアイヌが「先住民」であるかどうかについては、国際的な議論との関係において慎重
に検討する必要があるものと考えている。

(3)
いずれにせよ、政府としては、アイヌの人々の社会的、経済的な地位の向上を図るため北海道が実
施しているウタリ福祉対策を円滑に推進するため、昭和49年5月に、北海道ウタリ対策関係省庁連
絡会議を設置し、関係行政機関相互間の連絡を図りつつ諸般の施策の充実に努めているところであ
り、また、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多
様な文化の発展に寄与することを目的として制定された、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等
に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成9年5月14日法律第52号)に基づき、アイヌ文化の
振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進して
いるなど、アイヌの人々に関する様々な施策に取り組んでいるところである。


15.パラ17の「原住民及び種族民に関するILO第169号条約を批准すること及び(又は)これを指針として使
用することを慫慂する。」に関し、

 本条約については、ILOが本来取り上げるべき労働者保護以外の事項が多く含まれており、また我が国
の法制度に整合しない規定が残されているという問題もあるため、ILO総会での採択のための票決におい
て我が国政府は棄権したところであり、直ちに批准するには問題が多いと考えている。

16.パラ18の「当局が引き続き申請者に氏名を変更するよう求めており、又、韓国・朝鮮人は差別をおそ
れ、そのようにせざるを得ないことに懸念を表明する。」について、

(1)
在日韓国・朝鮮人に対する差別が存在するとの指摘のあることは承知しているが、政府としては学
校教育や各種の啓発活動を通じて、差別のない社会を作るべく努力を続けてきており、徐々にでは
あるが改善してきていると考えている。

(2)
他方、当局が帰化により日本国籍を取得しようとする者に氏名を変更するよう求めている事実はな
く、申請者に対しては、帰化後の氏名は自由に定めることができる旨の周知を図っているところで
ある。


17.パラ20の「委員会は、国家賠償法が本条約第6条に反し、相互主義に基づいてのみ救済を提供することに
懸念を有する。」について、

(1)
我が国の国家賠償法が相互主義を採用している(第6条)のは、国際社会における国家間の主権平
等の原則を基礎とするものであり、この法理は、国際的にも認められた法理である。
 また被害者である外国人の本国において、日本人に対して国家賠償が全く認められない場合に、
我が国においてその外国人のために国家賠償が認められることとなると、日本国民が不当な差別を
受ける結果にもなることから、現行の相互主義は、むしろ内外国人の実質的平等を図っているとい
うこともできると考えられる。

(2)
したがって、国籍に基づく差別は本条約の対象とはならないことから、国家賠償法第6条の相互主
義の下で、我が国の国民に国家賠償を認めない国を本国とする外国人が国家賠償法の適用を受けな
い場合があり得るとしても、人種差別撤廃条約との関係で問題は生じないものと解している。


18.パラ23の「次回報告に、(i)1997年の人権擁護施策推進法及び人権擁護推進審議会の任務及び権限に関す
る更なる情報を提供するよう求める。」について、

(1)
人権擁護施策推進法は、人権の擁護に資するため、人権の尊重の理念に関する国民相互の理解を深
めるための教育及び啓発に関する施策並びに人権が侵害された場合における被害者の救済に関する
施策を推進する国の責務を定めるとともに、法務省に、これらの施策に関する基本的事項を調査審
議するための人権擁護推進審議会を設置することを定めるものである。

(2)同審議会は第一回会議において、法務大臣、文部科学大臣及び総務大臣から、「人権尊重に関する
国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」
(諮問第1号)、法務大臣から「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実
に関する基本的事項」(諮問第2号)について、それぞれ諮問を受けた。同審議会は、諮問第1号に
ついて、1999年7月に答申し、諮問第2号については、2001年5月に人権救済制度の在り方について
答申した。同審議会では、今後、引き続き、人権擁護委員制度の在り方について調査審議を行う予
定となっている。

(3)政府としては、同審議会の答申を最大限尊重して、提言された人権救済制度の確立に向けて全力を尽くしていく考えであり、次回の報告には講じた施策等について情報を提供する予定である。


19.パラ23の「次回報告に、(iii)地域改善対策特定事業に係る国に財政上の特別措置に関する法律及び同法律が2002年に終了した後に、部落民に対する差別を撤廃するために考えられている戦略、の影響に関する更なる情報を提供するよう求める。」について、

 そもそも社会的出身に基づく差別は本条約の対象ではないが、更に、2002年3月末に同和地区に限定した特別対策は終了し、2002年4月以降、施策ニーズに対しては、他の地域と同様、所要の一般対策を講じることによって対応していくことになる。


 20.パラ24の「本条約第14条に規定する宣言・・・・の可能性につき検討するよう勧告する。」に関し、

(1)同条約第14条が定める個人通報制度については、条約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度であると考えているが、司法権の独立を侵す恐れがないかとの点も含め、我が国司法制度との関係で問題が生じる恐れがあるとの指摘があり、これらの点について、真剣かつ慎重に検討しているところである。従って、宣言をするか否かについては、こうした点も踏まえ、慎重に判断したいと考えている。

(2)なお、司法制度との関係での問題に関しては、我が国の裁判は三審制度を採用して慎重な審理が行われている上、裁判確定後においても再審制度が設けられており、通常の裁判手続きにおける不服申立制度の他、非常救済手続きも完備され十分に機能しているところ、このような国内救済手続きの体系を混乱させる恐れもないわけではないと考えられる。


 21.パラ25の「本条約第8条6の改正を批准するよう勧告する。」に関し、

 我が国は、条約上の義務は締約国のみを拘束するのが原則であり、従って条約の費用は締約国が負担すべきであり、未締約国を含む国々からの分担金を主たる財源とする国連通常予算で賄うべきではないと考えており、現時点で右改正を受諾する予定はない。

ENDS

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