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風に吹かれて:in the U.S.A. 増える「拉致」=國枝すみれ
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/archive/news/2006/08/28/20060828dde012070009000c.html
ハリウッドの映画館で、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんのドキュメンタリー「アブダクション(めぐみ−−引き裂かれた家族の30年)」を見た。クリス・シェリダン監督が言う。「日本人は拉致問題を政治問題とみるが、私は人間の問題ととらえた。13歳の子どもを奪われた家族の苦しみは、どんな国の人間でも理解できる」
映画館を出ると、米国人男性が観客一人一人に「アブダクションを見ましたか」と声を掛けていた。「見た」と答えた人には「日本人も子どもを拉致しています」とちらしを手渡す。
パトリック・ブレイデンさん(46)。日本人女性と交際して、昨年4月に娘が生まれた。しかし、関係は妊娠中から冷え始め、女性は親権裁判の途中で生後11カ月の娘を連れて帰国してしまったという。
もちろん、北朝鮮当局に拉致されためぐみさんとは次元が違う。しかし米国では、一方の親が他方の承諾なく子どもを連れ去ったら、れっきとした犯罪。誘拐犯として手配されてしまう。
結婚の半分が破たんする米国では、別れても子どもは両親二人のもの、ともに養育責任があると考えるのが普通だ。親権裁判の泥仕合を何度も見たカウンセラーも言っていた。「恋愛関係が壊れ、心に傷を負った人間は、子どもに会わせないことで相手に報復しようとする。そういう人には、壊れたのはあなたとの関係で、子供との関係ではない、と何度も言って聞かせる」
外国での親権裁判で不利な判定が出ることを恐れ、子どもを連れ去る日本人女性は、米国の法と文化を大きく踏み外すことになる。実際、FBI(米連邦捜査局)のお尋ね者リストには日本人女性の写真が並んでいる。
米国務省によれば、日本人による子どもの連れ去りはこれまで37件報告され、うち18件は昨年以降に起きている。国際協定「子の奪取に関する条約」の加盟国は、連れ去られた子どもを元の国に戻すよう協力する義務があるが、日本は加盟していない。欧米諸国は日本を「連れ去り天国」と批判し、条約に加盟するよう圧力をかけている。
映画終了から1時間たっても、ちらし配りを続けるブレイデンさん。北朝鮮の拉致問題と一緒にするのはちょっと強引だとも思ったが、「子どもを奪われた気持ちは同じ。勝手に連れ去るのは、僕と赤ん坊にとって公平じゃない」という父親の気持ちは分からないでもない。(ロサンゼルス支局)
毎日新聞 2006年8月28日 東京夕刊